7月12日から16日にかけて開催された今年のオリジンズでは、ここ数年停滞気味であった米国のウォーゲーム業界に、明るい展望をもたらしてくれそうな新製品が各メーカーから出版されていた。ジ・ゲーマーズ、GMTゲームズ、アヴァランチ・プレスの「御三家」に加え、あのアバロンヒルがハスブローによる買収後はじめて自社ブースを開設していたことは、ウォーゲーム関連のブースが充実していた今年のオリジンズを特徴づける明るいニュースだったが、それ以外のメーカーについても、クリティカル・ヒットの傘下に入ったことで資金調達の苦労が軽減したモメンツ・イン・ヒストリーの今後の展開など期待を抱かせるプランが目白押しとなっている。
それでは、簡単にではあるが、各メーカーの主だった動きを順に紹介していこう。
(以下敬称略)
《ジ・ゲーマーズ》
同社が今回のオリジンズで発表したのは、OCSの新製品である『Sicily』だったが、それと同時にディーン・エスイグが会期の少し前に突然発表したチャリオット・ゲーム『サーカス・ミニマム』(プロジェクト100受付中)のデモプレイにも注目が集まっていた。エスイグに動機を尋ねてみたところ、たまたまプレイしたアバロンヒルの同テーマのゲーム『サーカス・マキシム』にハマってしまい、もっとゲーム的な完成度を高めたものを作ろうとの思いから、一気にデザインしてしまったのだという。特に映画『グラディエーター』の公開を意識したというわけではないらしい(無関係とも思えないが)。
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写真:左がディーン・エスイグ社長 |
《GMTゲームズ》
同社の出版方針は、予約注文が500に達した時点で発売を決定する『プロジェクト500』や、同じく絶版ゲームへの注文が250に達した時点で再版を決定する『プロジェクト250』など、コンシューマーの意向を最大限尊重する姿勢で人気を博しており、今回のオリジンズで発表された新製品『ウクライナ'43』『レソルジメント
1859(イタリア統一の戦い)』『アウステルリッツ』の売れ行きも好調だった。特に『ウクライナ'43』は、シモニッチ自身によるルールブックの構成が非常によく考えられており、几帳面でやさしい同氏の性格がよく表れている(今年のオリジンズには来場せず)。また、フリープレイの部屋では、新進デザイナーであるベン・ハル氏(なかなかのナイスガイ)による会戦級の新作2点『スウェーデン・ファイツ・オン』(30年戦争の3つの戦い)と『ディス・アキュアースド・シヴィル・ウォー』(英国内戦の4つの戦い)のテストや、天才的なカードゲームデザイナーとしての地位を獲得しつつあるライナー・クニーヅィアの古代戦カードゲーム『バトルライン』、同じくクニーヅィアと旧アバロン・ヒルのドナルド・グリーンウッドによる共作カードゲーム『ギャラクシー』、そして『アウステルリッツ』のデザイナーであるディヴィッド・フォックスによる30年戦争の戦略級ゲーム(ポイント・トゥ・ポイント方式)などがテストされていたが、特に『バトルライン』は好評を博していたようである。システム的には、ポーカーに似たカードの組み合わせを基準に個々の戦いを決してゆくもので、ルールは非常に簡単でありながら、熟練したプレイヤーに勝つのは非常に難しそうな作品だった。
《アヴァランチ・プレス》
同社社長のブライアン・クニップルは、私の中ではウリ・ブレネマンに次いで好感度の高い人物だが、あくまで副業としてゲームを出しているというメーカーがいつの間にか姿を消しているという場合が多い(スピアヘッドやスティーブ・ボーンなど)中、高品質なゲームを安定して出し続けているその経営感覚もまた、尊敬に値する。今年のオリジンズに向けて同社が用意した新製品『SOPAC』と『1898』は、残念ながら会期に間に合わなかったものの、逆に言えば一時的な売り上げのために無理矢理会期に間に合わせることをしなかったわけで、同社の性格を表しているとも言える。『SOPAC』は、同社の看板シリーズである『グレート・ウォー・アット・シー』シリーズの第二次大戦版で、ガダルカナル島を中心とするソロモン海域を舞台としている。一方『1898』は、同シリーズの米西戦争版で、メーン号をはじめ米西両国の艦艇が登場する。クニップルによると、新作の発売予定は『SOPAC』が8月、『1898』が9月、古代戦の戦術級『ローマ・アット・ウォー』が10月、第二次大戦の戦術級『パンツァー・グレナディア』の続編が年内、そして『SOPAC』に続く第二作『ミッドウェイ』が来年1月とのことである。
《モメンツ・イン・ヒストリー/クリティカル・ヒット》
クリティカル・ヒットの社長レイモンド・タピオとは今回初の顔合わせだったが、ニューヨーク在住の彼は非常に早口でしゃべる、エネルギッシュな好人物だった。副業ではなく、本業としてこの会社を運営しているらしい。同社は今回、ASLのトラクター工場戦モジュール『コンバット・スターリングラード』を出版したのに加え、モメンツ・イン・ヒストリーの新作『ヴェリキエ・ルキ』と『チュニジア'43』、『ロイヤル・タンク・コーア』を販売していたが、前二作はとりわけ好調な売れ行きを示し、ブレネマンも上機嫌であった。モメンツ・イン・ヒストリー・ブランドの今後の予定としては、北アフリカの戦術級『トブルク』(旧アバロンヒル版の改訂版)、『D-Day』、そして私のデザインするベルリン戦(『神々の黄昏』)の三作が進行中だが、三人でいろいろと契約条件に関する話をした結果、私が同社のアートディレクターとしてこれらのゲームのグラフィックを担当することに決まった。特にブレネマンは、『チュニジア'43』および『ロイヤル・タンク・コーア』のグラフィックとコンポーネントの質にかなりの不満を抱いており、後者ではテッド・レイサーによるせっかくの好テーマ(第一次大戦カンブレーの戦い)が活かされないと嘆いていた。また、ブレネマンは『神々の黄昏』のプレイテストとディヴェロップに並々ならぬ熱意を示してくれており、同ゲームの本格的な最終テストはドイツで行われることになりそうである。
《アバロンヒル》
ハスブローによる買収後、動向を注目されていた同社だが、今回のオリジンズ会場ではかなり金のかかった専用ブースを開設しており、旧アバロンヒルの製品ラインの中から『アクワイア』と『ディプロマシー』を新装再版したほか、『アクシス・アンド・アライス』や南北戦争の会戦ゲーム『バトル・クライ』、『スターウォーズ』、『コズミック・エンカウンター』などをブースに並べていた。いずれもプラスチック製フィギュアなどを使ってプレイする「12歳以上」の簡単なゲームで、ハスブロー社のスタッフであるマイケル・グレイ(プロダクトデザイン担当シニアディレクター)によると、今はゲーム界全体の底上げが必要な時期であるとの判断から、難易度の高いゲームの再版は見送られているのだという。
《その他》
スペースの関係上、他のメーカーについての情報は軽く触れるだけに留めたい。コロンビア・ゲームズは、積み木ゲームの太平洋版『パシフィック・ビクトリー』を出版。GR/Dからはヨーロッパシリーズでメキシコ革命などを再現するゲームの計画を発表していた。デシジョン・ゲームズのブースでは、独自路線で第一次大戦ゲームを作り続けているディヴィッド・シュレーダーが新たなモジュール『ルーマニア』をリリース。また、ゲーム誌『ペーパーウォーズ』のブースでは、ADGから発売された『ワールド・イン・フレームズ』のCD-ROM(ルールや地図、駒などのデータを収録したもの)を販売していた。
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